会報『ブラジル特報』 2012年9月号掲載

                                    中山 雄亮 (在サンパウロ総領事館広報文化担当副領事)


 「一石二鳥」 は、ポルトガル語では 「一撃二兎 (matar dois coelhos com uma cajadada só)」という表現になるそうです。一つの行為で同時に二つの効果を上げることの意ですが、「ブラジルの日本祭り」は、一回で少なくとも三つの大きな効果を上げることができる、日本にとって大変価値のある重要な事業ではないかと考えます。


世界で最大規模のお祭り

 近年、在サンパウロ総領事館の管轄内 (サンパウロ州、マット・グロッソ州、マット・グロッソ・ド・スル州、ミナス・ジェライス州三角ミナス地域)では、各地の日系団体が主体となって、数多くの日本祭りが開催されています。主だったものだけでも、サンパウロ市(市内各地)、モジ・ダス・クルーゼス市、カンピーナス市、サルト市、オザスコ市、ボツカツ市、ガルサ市、リメイラ市、アチバイア市、コチア市、サントス市、サン・ジョゼ・ドス・カンポス市(すべてサンパウロ州)、クイアバ市(マット・グロッソ州都)、カンポ・グランデ市(マット・グロッソ・ド・スル州都)などがあり、各地で日本祭り、または日本文化を紹介するお祭りが、例年開催されています。
 これらのお祭りは、通常、金、土、日の3日間の開催で数万人単位の参加者を集めています。この中でも毎年7月に、ブラジル日本都道府県人会連合会(県連)が主催している、サンパウロ市の「日本祭り(Festival
do Japão)」は今年で15回目の開催となり、毎年約20万人の参加者を集める、世界でも最大規模の日本祭りといわれています。在サンパウロ総領事館は、この 「日本祭り(Festival do Japão)」 をはじめとして各地の日本祭りに対し、イベントやブースの提供、総領事館所有の日本文化啓発物品の貸出し、展示支援、後援名義の付与などを行い、各日本祭りがより大きな成功を収めるよう、微力ながらお手伝いをするとともに、お祭りの機会を活用させていただき日本文化普及のための活動を行っています。

今年7月に開催されたサンパウロ市における「第15回日本祭り」


注目の日系人ミスコン
 各日本祭りでは、和太鼓、日本舞踊、よさこいソ—ラン等の日本の芸能のパフォーマンスから、柔道、剣道、空手等の武道のデモンストレーション、生け花の展示、折り紙ワークショップ、コスプレ大会、ラジオ体操まで何でもありのオンパレードです。なかでも、一際参加者の注目を集めるのは 「ミス・ニッケイ(日系人女性のミスコン)」 で、スタイル抜群の日系人の女性の方々がその若さと美を誇示しながら、悠然と舞台を闊歩する姿にはいかにもブラジルらしい明るさと華やかさがあります。また、同祭りには、ヤキソバ (ポルトガル語表記:Yakissoba) や天ぷら (同:Tempurá) などの飲食スタンドから日系農家の生産する野菜・果物や、おもちゃ、日用雑貨の販売までとにかくいろいろなお店が出店されます。

日本祭り各地へ波及
 ここで注目したいのが、近年の各地における日本祭りの質的・量的な拡大と、日系・非日系を問わない、地域社会への浸透率の高さです。サンパウロ市の 「日本祭り(Festival do Japão)」 の大成功に触発されるように、各地の日系団体は、既存のお祭りのスケール拡大や新規お祭りの立ち上げに懸命に取り組んでいます。また、会場を見渡すと非日系の家族連れがヤキソバや天ぷら(当地の天ぷらはかき揚げを煎餅のようにして、スナック感覚で食べます)を食べながら、日本祭りの出し物や雰囲気を楽しんでいる姿が目立ちます。
 一例としては、ボツカツ市 (サンパウロ市から北西に約250㎞) で開催されている 「ボツカツ日本祭り・トモダチ」 があります。2010年に在サンパウロ総領事館の支援のもと、同市の日系団体とボツカツ市役所が主体となって、第1回のお祭りが立ち上げられ、昨年10月に開催された第2回の 「ボツカツ日本祭り・トモダチ」 には3日間で1万人もの参加がありました。同市は、人口約13万人、そのうち日系人は約1,500人ですが、この数字から見れば、近隣の都市からの来訪者を考慮しても、大部分の参加者は非日系のブラジル人といえるでしょう。同祭りを主催する日系団体の幹部は、「近年は、非日系のブラジル人の間でも、日本文化への関心が広まっているため、お祭りに参加する人が増えている」 と述べています。
 また、今年で5回目の日本祭りの開催を迎えるサルト市 (サンパウロ市から北西に約100km)のガルシア市長は、大部前総領事に対して 「サルト市の日系団体は、イタリア系、アフリカ系等日系以外の市民にも広く声をかけ、主催側に招待してくれたため、結果として、市の連帯に大きく貢献してくれた」 と述べていました。日系団体が、日本祭りを通じて、現地政府からの評価を高めている好例であると思います。

料理ゲットに2時間待ちも
  日系団体等が日本祭りに参加する目的の一つには、団体の資金集めがあります。前述のサンパウロ市 「日本祭り」 には20万人もの人出があることは述べましたが、来場者のお目当ての一つは、各県人会が出す飲食スタンドです。各県人会はこぞってご当地名物の食べ物や飲み物を販売しますが、人気のあるスタンドでは、長蛇の列ができ、お昼時では30分待ちは当たり前、なかには2時間も待ってお目当てのお好み焼きをゲットするという人もいます。ただでさえ消費志向の強いブラジルの人が、楽しいお祭り気分ともなると、さらに購買意欲が高まります。
 ある県人会の幹部は、「お祭りの機会に県人会の資金集めができ、本当に助かっている」 と述べていました。日本祭りは、各団体が資金を集め、後々のさらなる活動を活性化させるためのツールとしても有効であるといえます。具体例をもう一つあげます。在サンパウロ総領事館は、2011年にマット・グロッソ州都クイアバ市 (サンパウロ市から北西に1,600㎞) において 「第1回マット・グロッソ日本七夕祭り」 の立ち上げ支援をしました。同市ではかつては日本人会が活発に活動していましたが、1990年代からのいわゆる 「デカセギ・ブーム」 により、同市の日系人数は激減し、段々と人が集まらなくなり、活動は目立たないものとなりました。


 また、本来各会員を束ねる立場にある中堅の方々が 「デカセギ」 で日本に行ってしまったことも手伝って、そもそも日系人数もそれほど多くない、クイアバ市と、川を挟んでクイアバ市に隣接するバルゼア・グランデ市の両市で3つの日系団体が形成されることとなり、それぞれの団体の交流も途絶えがちになってしまいました。このような状況の中、2011年当時、大部前総領事は、日本人会の元幹部がブラジルに帰国したチャンスを捉え、同地の日系団体に日本祭りの開催を提案しました。マット・グロッソ州政府およびクイアバ市もこのイニシアティブに大いに賛同、全面的な協力を約束し、開催に漕ぎ着けることができました。また、七夕の飾りつけ等のお祭りのノウハウは、ブラジル宮城県人会が中心となって、お祭りの開催経験のない同地の日系団体をサポートしました。
 結果は、3日間で予想を大幅に超える約3~4万人を集め、大成功に終わりました。この成功に対して、同市の日系団体の幹部は 「今回のお祭りでは3つの日系団体の全員がハッピーになった」 と述べていました。大規模な日本祭りの成功体験を契機に、これまで交流が殆ど途絶えていた日系団体に新たに連帯の動きが芽生えたとのことです。また、今回のお祭りは、マット・グロッソ州政府、クイアバ市役所、クイアバ市民の全者に好評を博したため、閉会後間もなく第2回の開催が決定されるという大きなおまけもついてきました。

「第15回日本祭り」内の在サンパウロ総領事館特設ブース


                                   ◇

これまで述べてきたことをまとめると、日本祭りには、 ブラジルにおける日本と日本文化の普及、 日系社会の所在地域における地位向上(州や市といった地域政府との関係強化)、 日系団体の(再)活性化(資金調達、日系団体間の結束)といった大きなメリットがあると考えられます。そしてこれらすべてのメリットは、我が国が進める日本文化の積極的な発信に、直接・間接的に大きな効果をもたらすと考えられます。
「日系社会は日本外交の宝」であるというフレーズが、日本祭りを通じて広報文化を担当する私の心にも響いてきます。