会報『ブラジル特報』 2008年
5月号掲載

                  伊藤博夫(日本アマゾンアルミニウム㈱常勤監査役、当協会監事)



アマゾン河口のパラ州ベレン市にほど近いバルカレーナの地に、日本ブラジル両国のナショナル・プロジェクトのランドマークのひとつ、アマゾンアルミ・プロジェクトがある。

コンパニア・バレ・ド・リオドセ(CVRD、現 VALE)をブラジル側パートナーとして、アマゾン地域に豊富に賦存するボーキサイトおよび水力の2大資源を活用し、ボーキサイト→アルミナ→アルミニウムの一貫生産を行うプロジェクトで、日本にとってはアルミニウム資源の安定確保、ブラジルにとってはアルミニウム自給体制確立による国際収支の改善と、北部アマゾン地域開発という重要な目的と意義を有する。

アルミニウム製錬を行うアルブラスでは、南米最大級となる年産45万トンの設備がフル操業中である。生産されたアルミニウム地金のうち、日本には毎年22万トンを輸出しており、これはわが国アルミニウム輸入の約10%を占める。姉妹会社であるアルノルテは、アルブラスに隣接し、アルミニウム地金の主原料であるアルミナを生産している。アルミナ年産439万トンは世界一の生産規模を誇るが、さらに本年中に626万トンまでの増強工事が完成する予定である。
 今日、アルブラスとアルノルテは合わせて20億ドル超の製品を輸出し、ブラジルの重要な外貨獲得源となっている。数千人の直接間接の雇用を擁し、パラ州における地域開発の一大牽引者でもある。アマゾン地域で事業を営むものとして、環境との調和、地域との共生にも注力しており、それは品質管理、環境保全、労働安全、地域社会貢献の国際認証によっても証明されている。さらに、アルブラスは2007年に日本のデミング賞に相当する全国品質協会賞(PNQ)を受賞している。   アルブラスは操業開始20年目、アルノルテは操業開始10年目となる2004年に揃って累積損失を解消、日本側投融資窓口である日本アマゾンアルミニウムも、創立30周年の節目に当たる2007年3月に初配当を実現した。今でこそ日本とブラジルとの経済協力プロジェクトの成功例に数えられるようになったアマゾンアルミ・プロジェクトだが、過去には市況低迷などによりアルブラスの経営が悪化、二度にわたる政府支援を必要とし、またアルノルテも建設凍結と日本側の一時撤退という苦難の歴史をもつ。アマゾンアルミ・プロジェクトの今日の姿は、粘り強く初心を貫いた事業当事者の情熱と努力、多くの両国関係者の支援の賜物といえよう。

元リオドセ社会長・元ブラジル鉱山エネルギー大臣のエリエゼル・バチスタ氏は、日本アマゾンアルミニウム30年史に寄せた回顧録の中で「信頼の勝利」と謳った。国を超えた人と人との交流、ともに築き上げた信頼関係こそが要であり、この信念は日本とブラジルの一大共同事業であるアマゾンアルミ・プロジェクトの中に今日も脈々といきづいている。

 

プロジェクト立体図(図をクリックすると大画面に移行します)

 アルブラス工場全景(アルブラス提供)