演 題:ブラジルの現状と課題及び日伯関係の現状
講演者:梅田邦夫 駐ブラジル日本国大使
約90名の参加者を前に、ウラ情報も含め現在の政治経済事情に精通された大使による、臨場感あふれる講演を展開していただいた。要旨は次の通り。
第二次ルセーフ政権に対する国民の支持率は、2014年12月42%から2015年12月12%へと急落した。要因としては、選挙公約と実際の政策との乖離、ペトロブラス汚職問題の拡大、経済の悪化、を指摘できる。汚職事件捜査は、2014年3月から本格化し、史上最大の汚職捜査に発展、2015年末までに計116名の経済人、元閣僚、議員らが逮捕され、約50名の現職・元議員の捜査が継続中である。特筆すべき諸点として、①司法取引、②海外司法当局との密接な連携、③(これまで拘留されることのなかった)権力者・富裕層が法で裁かれ刑務所入りした、④国民が、汚職捜査進展を強く支持している、といったことを指摘できる。
ルセーフ大統領弾劾は、下院特別委員会設置が決まったものの、最高裁が手続きを一旦中断したため、手続き再開はカーニバル後となる。国会における弾劾支持・成立は難しいとみられているが、連立与党の動き、国民の弾劾を求める運動の動向、などによって今後の展開が決まるだろう。また、選挙高等裁判所が、2014年10月の大統領選挙が無効であるか審議中であり、この判決次第では、選挙やり直しの可能性も出てくる。
経済情勢については、GDPマイナス成長(2015年▼3.7%、2016年見込み▼3.0%)が続き、格付け機関はブラジルを投資不適格に格下げ、2015年12月レヴィ財務大臣が辞任(実質的な解任)した。バルボーザ新大臣は、財政健全化は不変と発言しているが、市場は懐疑的。経済成長回復のためには、ペトロブラス汚職の早期解明、政治の安定が不可欠だ。中期的には、構造改革(税、社会保障、労働法など)が不可欠。
外交については、近年BRICSとの関係が緊密化していたが、中国経済減速、一次産品価格低迷などの情勢変化を受け、伝統的友好国(米国、EU、日本)との関係強化にも尽力してきている。マクリ・アルゼンチン新大統領選出、ベネズエラ総選挙(野党勝利)がメルコスルはじめ地域の政治経済にどう影響してくるか注目している。
リオ・オリンピック、パラリンピックについては、競技施設は開幕までには完成するが、関連交通インフラが、一部間に合わないと懸念される。ブラジル国内での盛り上がりは今ひとつである。
日本政府の三つの業務として、①選手団・邦人来訪者の安全確保、②要人来訪対応、③日本選手団のサポート応援、がある。また、日伯スポーツ交流の強化も進めたい。
ブラジルのマクロ政治経済の要点は、①民主主義の基盤は健在(危機的状況に直面するも、司法の独立、報道の自由、などの民主主義の根幹は堅固であり、民主主義は機能している)、②潜在力と市場の大きさは不変(GDP世界第7位、食料純輸出国)、の二点を強調したい。
日伯関係の現状について。2015年は日本ブラジル外交関係樹立120周年であったが、ブラジル国内で一年を通じ、約550の記念事業が実施され、数百万人のブラジル人が参加した。特別事業として、(サンパウロ)日本館改修、花火祭り、日伯共同プロジェクト特別展示。また、秋篠宮同妃両殿下のブラジル訪問(10月28日-11月8日)もブラジルにおける対日親近感熟成に大きな貢献をした。
ルセーフ大統領の二回目の訪日延期は、政治混乱の背景を考えれば、やむを得なかったが、大統領より謝罪の言葉をいただいており、このダメージを如何に最小化するか、が問われている。訪日は状況をみつつ、再調整したい。
余談となるが、米国大使によれば、「ブラジルは親米国であり、米国企業はブラジル事業を長い眼でみているため、ブラジルへの投資を減らしていない」。
日 時
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2016年1月25日(月) 16:30~18:00 |
会 場 | フォーリン・プレスセンター会見室
住 所:千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンタービル6階 |
会 費 | 会 員 2,000円 非会員 3,000円 ※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。 |