会報『ブラジル特報』 2013年1月号掲載 山田 彰(外務省中南米局長)
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新年にあたり、皆様の益々のご健勝をお祈り申し上げます。 昨年1月、中南米局長を拝命し、この一年間、ブラジルを含む対中南米諸国外交に取り組んで参りました。リーマン・ショック、欧州経済危機などもあって、世界経済の行く末を見通すことが容易でない中で、中南米地域は近年めざましい経済成長を遂げ、アジアと並ぶ世界経済の成長センターと目されるまでになっています。なかでも、ブラジルは、広大な国土と豊富な資源・食糧といった潜在的な国力に加え、レアル計画によるハイパー・インフレの沈静化、15年以上にわたる一貫した経済政策などを通じて、2期8年間のルーラ政権時代に債務国から債権国に転換し、後継者のルセーフ大統領が就任した2011年には世界第6位の経済大国になりました。長い間「未来の大国」と呼ばれてきたブラジルは、今や「現在の大国」としての地位を確立しつつあります。以下、年頭にあたり、世界におけるブラジルの位置づけを考察しつつ、今後の日本とブラジルの関係について展望したいと思います。 経済力に裏打ちされた国際社会での地位の向上 昨年11月のスペインでのイベロサミットに出席したルセーフ大統領は、経済紙のインタビューに答え、ブラジルの年間GDP成長率について、最低4%以上が望ましいと述べ、そのためには、単に国内産業を保護するのではなく、より国際競争力のある産業を育てていくことが必要であるとの認識を示しました。また、ブラジル政府として、長期の投資資金源を獲得するため、資本市場を近代化し、投資を活性化するための一連の対策を準備中であること、製造コストを削減するための一連の政策(社会保障負担金の減免,商品流通サービス税(ICMS)の統一等)や,特別契約制度の導入によるインフラ整備推進に取組んでいるなど、ブラジルの経済政策の現状や方向性について説明しました。 南米諸国が保護主義的な傾向を示しているのではないかとの懸念が存在する中、ブラジルも、産業振興の一環として自動車に対する工業製品税の引き上げ、関税の引き上げなどを行っています。国際的地位の高まる中で、国際的な枠組み、秩序の維持・形成におけるブラジルの影響力や責任は、かつてよりはるかに大きくなっていくでしょう。 ルセーフ政権二年目の内政 2012年5月の真相究明委員会の発足にいたるまでの過程も、ルセーフ大統領ならではの取り組みといえましょう。ルセーフ大統領は、1964年から85年まで続いた軍事政権時代に、極左活動家として治安当局に身柄を拘束され、拷問を受けたこともあります。しかしながら、私的利害関係を超え、軍政時代の人権侵害に対する責任を追及するためではなく、真相を究明することを目的とすることを明確に示し、故フランコ元大統領を除く、民政移管後のすべての大統領(サルネイ元大統領、コロール元大統領、カルドーゾ元大統領、ルーラ前大統領)の立ち会いの下、軍政時代の人権侵害について調査する真相究明委員会を発足させました。発足に先立ち、一部退役軍人からの反発もありましたが、軍の最高司令官としての指導力を発揮して、アモリン国防相を通じて対応にあたらせ、事態を収拾しました。 ブラジル経済の好調にともない、日本企業のブラジル進出も活発になっており、2009年から11年3年間に日本からの直接投資は飛躍的に増加し、オランダ、米国、スペインに次ぎ,第4位の対ブラジル投資国となりました。日本ブラジル間貿易も堅調な伸びを記録しています。 (注)メンサロン事件 (本稿は筆者の個人的見解であり,外務省の見解を代表したものではありません。) |