執筆者:桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)
ジェトロ時代、メキシコ、サンテイアゴ、ミラノ、サンパウロに駐在した。
メキシコ駐在時代は、末端所員であったので、それほど商工会議所活動には活発ではなかったが、それでも、日墨学園の建設に関わる事務的な仕事を担当させていただいた。サンテイアゴ時代には、会議所の会報編集責任者として、軌道に載せる仕事を担当したり、スポーツ委員として、家族揃ってのソフトボール大会の組織等を行った。ミラノでは、在イタリア日本人商工会議所の事務局長・理事として、活性化のための種々の活動を行った。サンパウロでは、コンサルタント部会長やマーケテイング・広報担当常任理事であった。サンテイアゴ、ミラノ、サンパウロの3か所で、主要な外国商工会議所の活動について実地に調査した。それらの一連の調査から、日本の商工会議所活動の活性化のために役立つことはないかと常に考えることにしていた。それら3か国の外国商工会議所の活動の調査を通じて、日本の商工会議所とどのように異なるかを見てみたい。
1) 巻き込む力 -会員増をめざす
まず、サンパウロでもどこでも、米国、ドイツ、フランス、英国、スペイン、イタリア等の商工会議所の会員企業数の多さが指摘できる。その理由は、日本の商工会議所が、日本企業中心に構成されているのに対し、それら外国の商工会議所は、自国の企業のみならず、進出国の地元の企業、その他外国企業に対しても積極的に会員勧誘を行っているからである。私の駐在時代(2003年11月~2006年3月)ですら、米国商工会議所は5,000社を超えていたし、ドイツも1,000社と言われていた。会員数が多いと数々のメリットが生じてくる。会議所組織から見ると、財政基盤が安定し、継続的かつ意欲的な活動を行うことができる。会員企業から見ると、参加が楽しくなるし、多様性のある企業との人脈形成も可能となる。その結果、ビジネスにもつながることになり、ますます会議所活動に参加しようということになる。日本の商工会議所は、もっと門戸を開放する努力を行うべきであろう。この点、サンパウロにあるブラジル日本商工会議所は十数年前から月例昼食会に日本語―ポルトガル語の同時通訳を入れているのは素晴らしい。
2) 一体化する力 -活動の活性化のためにあらゆる手段を活用する
連載エッセイ42「日本ブラジル商工会議所の思い出」の欄でもふれたが、外国商工会議所は、自分たちのプログラムをより良いものにするために、スポンサーを集めたり、共催相手、後援、協力組織を探すのに熱心である。昔の日本ブラジル商工会議所のように、会議所の名前を悪用されるなどという発想は存在しない。むしろどんどん会議所の名前を使ってもらい、会員増を図ることを考える。要は楽しく、会議所活動がよろ有益になることを目指すのである。
3) 何らかの貢献をしたい人が役員になる
この点が一番学ぶべきことかも知れない。会議所活動は、あくまでボランテイア・ベースである。よく話題になるのだが、役員もボランテイアなので、十分な活動を期待するのは間違いだという。日本の商工会議所の理事等役員リストを見ると、ほとんどが、日本の進出企業で、商社、銀行、メーカー、保険、建設などの現地社長がバランスよく配置されている。役員選挙も、事前に定数だけの候補者が推薦され、多くの場合、無選挙で決定される。立候補制度も十分に確立されていないことが多い。他の外国商工会議所のように選挙が行われないことが多い。推薦された役員候補も役員になった暁にはこういうことをやりたいと言った抱負や志を必ずしも持っているわけではなく、会議所理事という名声だけを得たいのである。横並びにA商社が推薦されているのでB商社もC商社もといった具合である。おそらく、本社には、現地で評価されているので会議所の役員に就任したと報告するのであろう。会議所の活動に貢献するという発想も比較的少ないようだ。一方、外国の商工会議所の役員リストを見ると、進出企業のみならず、ブラジル企業やコロニア企業などの名前が多い。選挙に立候補し、選出された役員は、過去の実績も十分だし、事前にやりたいことを明確にしていることがほとんどである。初めからやる気が違うのである。ここでは、日本の場合ほど、ボランテイアだからという言い訳はなされない。
「米国商工会議所式会員獲得戦術」
駐在中の2005年頃に、米国商工会議所(AMCHAM)のヴァスコンセロス専務理事に、米国商工会議所の活動につき取材に出かけたことがあった。最も聞きたかったことは、「米国商工会議所式会員獲得戦術」であった。
いずれの会議所、いずれの団体でもいかに会員数を増やし財政基盤を強化するかは永遠の課題である。具体的に行動に移すとなるといろいろな意見が出されたり、思い切った案を提案すると保守的な役員に反対されたりするのがおちである。
AMCHAMブラジルは、海外にある米国商工会議所の中でも最大の規模を誇る。85年前に設立されたが、1990年頃までは、せいぜい500~600社程度の会員数であった。それが今では、全ブラジルで5300社、サンパウロで2300社にまで拡大している。おおまかに言うと会員企業の内、ブラジル企業は、75%、米国企業が、15%、その他の国の企業が、10%となっている。サンパウロ以外に、ベロオリゾンテ、ブラジリア、ゴイアニア、クリチバ、レシフェ、ポルトアレグレ、カンピーナスにも拠点を持っている。
では、どうしてそれほどの会員数を獲得できたのであろうか?
ヴァスコンセロス専務の前任者が、トレイニーを使って勧誘するという方法を考え出したのが成功の鍵であった。今年の例で説明する。AMCHAMのホームページでトレイニーを募集したところ、学生等6000名の応募があった。その中で一時選考をして、500名くらいに絞り込み、最終80名程度を採用する。採用者には、2週間の研修を行い、AMCHAMの機能と活動、歴史、サービス、会員獲得のための手法等を徹底的に教え込む。期間は、6ヶ月で、年2回トレイニ-を募集する。給与は、当時、月額400レアル(当時のレートで約18,000円)程度で、学習や授業等を考慮して、半日勤務となっている。米国式の面白いところは、たくさんの会員を勧誘してきた学生には、インセンテイブを与える方式で、優秀なトレイニーは、月額1000レアル(約45,000円)を稼ぎ出すという。
では、トレイニーにとってどういうメリットがあるのだろうか?
第1に、米国式セールス・プロモーションの方法を実地で習得できること、第2に何らかの所得を稼ぎ出すことができること、第3には、会員勧誘により、種々のコネができ、それが縁で就職に結びつくケースが結構あることが挙げられる。同専務によると、米国や外国企業、ブラジル企業のトップや幹部は、若いトレイニーらと意見交換をすることを結構楽しみにしているところがあり、肩書きに拘る日本企業とは少し違うとのことであった。
新規会員を勧誘するにあたり、必ず聞かれるのが、入会するとどのようなメリットがあるかということであるが、トレイニーには、会員候補企業には、会議所の活動を紹介させるとともに、当該企業のニーズを聞き出し、極力そのニーズに会議所として応えるようにしている。会員減少に悩む数多くの団体は、減少を嘆くばかりで何も具体的な活動をしないのが通例である。思い切った方法で事態を打破する意欲が必要である。米国商工会議所方式を実践するのは難しいかも知れないが、その発想法は大いに学ぶべきであろう。