執筆者:茂木真二氏(NPO法人在日ブラジル人を支援する会 代表理事)
千葉明子氏(NPO法人在日ブラジル人を支援する会 事務局長)

1)特定非営利活動法人在日ブラジル人を支援する会(サビジャ)の活動

 

特定非営利活動法人在日ブラジル人を支援する会(サビジャ)(以下、NPOサビジャ)は、在日ブラジル人の日本社会への適応、日常生活で生じる様々な問題の解決支援、子どもたちがその将来や未来への可能性を広げる為のサポートなどの活動を行うことを目的に、1998年に任意団体を結成、2003年に特定非営利活動法人として東京都庁の認証を受け、正式にNPOとして設立した。

以下、主な事業活動:

*相談事業

一般相談として、労働・入国手続き・税金・教育などの電話相談を実施している(2016年度実績1,386件)

専門家による相談:

*法律問題(労働等)に関して東京弁護士会と共にイベント内で相談窓口を開設。

*医療相談・心理相談:在京ブラジル総領事館・在名古屋ブラジル総領事館・在浜松ブラジル総領事館と連携し、ブラジル人専門家による医療相談・心理相談を無償で提供。

 

 

 

2016年実績

  • 面談式医療相談(145件)
  • オンライン式医療相談(661件)
  • オンライン式心理相談(680時間)
  • 面談式心理相談(392時間)

 

相談会の様子(左:法律相談、右:心理相談)

 

 

 

*青少年健全育成事業

ブラジル人子弟の自尊心の向上、日本社会および文化への適応、また将来を見据えた教育支援を目的として、ブラジル人学校と連携し、ワークショップやセミナーを開催している。

ブラジル人学校でのワークショップの様子

*校外学習事業

ブラジル人社会人を対象に、日本社会で働く上での心の持ち方、心理的サポート、労働者の権利と義務など基本情報を学ぶ場を提供。ブラジル人を雇用している会社などと連携してセミナーを開催。

セミナーでの講演の様子

*文化交流事業

日本人へブラジル・ブラジル人を知る機会を提供し、またブラジル人に日本文化を紹介する機会を設けるなど、相互の文化交流と理解を目指している。フェスティバルやチャリティーイベントを実施。

フェスタジュニーナ

チャリティーバーベキュー

*支援救済

特別支援として被災地のブラジル人および日本人へ物資の提供や心理士によるサポートを実施。これまでに東日本大震災、茨城県鬼怒川堤防決壊、熊本地震などの各被災地を支援。

被災地への支援の様子

2)在日ブラジル人コミュニティーの現状

1990年の入国管理法改正をきっかけに、“デカセギ” 労働者として日本にルーツを持つ日系ブラジル人を中心としたブラジル人が多く来日、ブラジル人コミュニティーと呼ばれる集住地域を形成した。これらコミュニティーでは結束が強い反面、日本語の習得必要性は薄く、日常生活に必要な情報源が限られ、日本社会との距離は縮まらず、孤立し、“デカセギ“生活が中心となる事から家族環境・生活環境が悪化し、最悪の場合犯罪に手を染めるケースまで発生した。そしてそのしわ寄せが子どもたちの生活、しいては彼らの将来まで影響を及ぼす事態となった。この状況に鑑み、当会を始め、各地域で有志グループが、行政とも連携しながら、ブラジル人の生活を改善するよう、様々な支援活動を行った。その後は状況が改善され、日本移民移住・日伯友好100周年を迎えるなど、明るい話題も出てきた中、2008年のリーマンショックの波及による経済環境の悪化から、職を失ったデカセギ労働者は帰国を余儀なくされ、2015年には、最盛期(2007年、32万人)のおよそ半分(17万人)まで減少した。

近年、その人口が再び増加傾向に転じて始めた。そして、愛知や静岡、群馬、茨城といったこれまでの集住地域に加えて、福井や島根といった地域に新たなブラジル人コミュニティーが形成されている。しかしながらこれまでの集住地域とは距離的にも離れており、また現地日本社会が他文化の受け入れ経験のない地域であることにから、多くの問題が浮き彫りになってきた。それは1990年代から取り組んできた諸問題、すなわちブラジル人コミュニティーと現地コミュニティーとの相互理解、子弟の教育問題、それに多く起因する心理問題等が、これら新興地域で再び深刻化しつつあるということだ。派遣会社を通じて来日したブラジル人労働者の多くは家族連れであり、子供たちは日本の公立学校に転入するが、言葉・文化が異なる世界に飛び込んで馴染むのは容易ではなく、また受け入れ側の学校・自治体は外国にルーツを持つ子供たちへの対応経験が乏しくノウハウも有していない。結果として、子供たちは不登校となり、手助けすべき保護者もまた自身の仕事や生活に馴染めないため、子どもの教育や心のケアにまで対応できていない。これまでの経験やノウハウを持つ当会の果たすべき役割が増大しており、現地の有志や行政とも連携を取りながら、支援活動に注力していく必要がある。

 

3)われわれができること

前述の通り、島根県周辺地域で起きている問題は、多面的な支援が必要である。すなわち、ブラジル人への支援、ブラジル人子弟への支援、日本社会へのサポートである。ブラジル人への支援は、日常生活を送る上での基本的な情報の提供、日本で働く上でのルールや心の持ち方、自身の子どもの教育への関心の重要性を教えることなどである。ブラジル人子弟へは上記の支援に加え、学校内での指導援助、将来の夢を持つこと、そしてそれを実現するために必要なことを自覚するためのワークショップなどの実施である。日本社会へのサポートは、愛知県や神奈川県などで外国児童への教育指導の経験ノウハウを持つ指導員によるサポートが適切と考えられる。当会は、これら活動を行政やブラジル人労働者が働いている企業や登録している派遣会社を巻き込んで進めるだけでなく、現地NPOなどと共に連携して行うことで、より長く地元に根付いた活動ができるようにその経験を共有し、現地NPOなどにノウハウを伝えていくことも重要であると捉えている。

生まれ育った環境から離れて暮らすことは、誰しもが自身のアイデンティティーに向き合わなければならない出来事である。それは生きていく上で重要なことであり、同じ日本という国で住む人間として、互いに助け合い、協力し合って乗り越えることは相互にとってよりよい生活を、よりよい人生を送ることにつながる。支援は与えるだけの一方通行のものではなく、支援という形で関わり合うことで、自身も相手の国や文化について知ることもでき、自身のアイデンティティーについて考える機会になる。それはお互いの成長につながる。我々は、ブラジル人・日本人という枠を越えて、一個人として皆がそれぞれの幸せを感じて生きていける社会に近づけるよう支援を続けて行きたい。

 

そのためにも皆様のご協力をお願いいたします。当会の活動に関心のある方、事業・イベントへの参加・寄付等ご協力にご関心のある方はご連絡下さい。宜しくお願いいたします。

 

連絡先

NPO Serviço de Assistência aos Brasileiros no Japão (SABJA)
特定非営利活動法人在日ブラジル人を支援する会(サビジャ)

代表理事 茂木真二
〒152-0035 東京都目黒区自由ヶ丘2-18-13-205
TEL : 050-6861-6400
Sites : http://www.nposabja.org/