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──マクロ指標では景気は低迷しているが、実際の個人消費レベルは悪くない。このギャップをどう見るか。
酒井 最近サンパウロに2週間ほど出張した。ホテルやレストランなど物価は高いと思ったが街中の消費は活発だった。1980年代の危機の時も消費は活発だったので、それと同じ現象なのではないか。当分この活況は続くように思う。
筒井(隆)マクロ指標と個人消費は連動していない。消費者は収入が増えたので、そのお金を大事に使いたいと考えている。企業はそこを狙っていく。日本企業としてはいいお客をつかみたい。PR活動より足でかせぐマーケティングをしていく。
二宮(康) GDP成長率が低いのは工業生産や投資などが足を引っ張っているからで、個人消費が減っているわけではない。非耐久消費財は比較的良い。消費者ニーズが多様化していることもあり、そこに合わせて売る工夫も必要だ。
──ブラジル経済が内需拡大の時代に入ったといわれるが、30年前はそうではなかった。ブラジルに住んでいる二宮弁護士に伺いたいが、個人消費はどう変化してきたのか。
二宮(正) 実感としては、今は自動車の車種は増加し、電化製品もそうだ。先ほど企業のPR活動の話が出たが、私は韓国もいいものをつくっていると思う。サムソンはサッカーチームのユニフォームにブランド名を入れたりして、PRもうまい。日本の強敵だと思う。中国の車はダメだけど。
──アジアの話が出たついでに伺いたいことがある。21世紀はアジアの時代といわれるが、ブラジルの時代にはならないのだろうか。
岡田 アジアは何といっても近い。中小企業にとってもアジアの方がいい。ブラジルへの移動は時間もコストもかかる。そういう人たちにブラジルに来てくださいとはいえない。
酒井 そもそも日本の経営者は南米を勉強していない。ブラジルへの渡航ルートは中東ドバイ経由など便利になった。しかしビジネスとなると、投資先としてフィリピン、インドネシアを選ぶのではないか。「中国+1」を考えるにあたってブラジルを検討する手はあると思うが。
──二宮(康)さん、ジェトロは最近メキシコとブラジルを比較した報告を出したが、主導権はどちらに?
二宮(康) メキシコは新自由主義的で、ブラジルは開発主義的な思想がみられる。メキシコは高成長でも、失業率は高く賃金が低いマーケット重視型。一方のブラジルは低成長ながら貧富格差は縮小しており社会重視型といえる。中国も貧富の格差が拡大している。社会重視という意味では、ブラジルは中国より進んでいると思う。今回それぞれ国の成り立ちが違い、重視するポイントも異なることはわかった。
──ブラジルの時代は無理か。
二宮(正) ブラジルについては警戒心を緩めてはいけない。いずれバラマキ政策のツケが回ってくるような気がする。日本とブラジルの関係でいえば、政治家の交流が少ない。ブラジルからは政治家が来るが、日本から首相、外相が行かない。在日ブラジル人21万人の絆が懸け橋になる。両国は遠いが、それを縮める査証相互免除協定を結んだらどうか。法務省にもいっているが動かない。
──経営問題について聞きたい。1988年憲法で労働者優遇が定着した。この流れは続くのか。
二宮(正) 88年憲法は民主主義の下で出来たもので、その後25年間で71回改正されている。それでも労働法だけは変わらずにきている。これは今後も変わらないと思う。企業が倒産した場合、最初に企業が持つ資産を処分できるのが労働者で、債権者はその後だ。だから労働者が会社への忠誠心があるかどうかは疑わしい。倒産した企業が泣いているのをたくさんみてきた。
──岡田さん、経営の要諦について先ほどいくつか挙げてもらったが、その中で最も重要なものは何か。
岡田 ブラジルでは日本人が考えないことが起こる。たとえば、同一職種は同一賃金という決まり。これを破って1人だけ別の賃金体系にするのは許されず、それでもやるなら配置換えをしないといけない。要は基本方針を社長が決めたら、細かいことは専門家に任せることだ。
二宮正人(コメンテータ)