演 題:南米ポピュリズムの現場から

 

(2017年7月から2021年9月まで、4年2か月の間、日経新聞サンパウロ支局長として勤務された外山氏は、その現場経験で感じたことをフリーに語ったので、その要旨を下記メモしたい。)

①2017.5.10 Lula初公判
Dilma大統領が弾劾され失職、ルーラ元大統領がLava-Jato容疑で初公判に向かう時、現場を取材した。「もうPT(労働者党)は終わった」とさかんに論じられ、自分も同様の趣旨の記事を書いたが、今思うと、「ルーラのカリスマ的人気は、その時も今も変わっていない、」

②2017.9.6 ベネズエラ・コロンビア国境
ベネズエラの富裕層、エンジニアなり医者なり高いスキルを有していて、他国でも働き口のある人たちは、既に国外に逃げ出しており、そうではない貧しい人たちはコロンビアとの国境地帯に着の身着のまま集まっていた。手っ取り早い仕事としてUber運転手やUberEatの自転車配達員などはベネズエラ人が急増、ペルーのタクシー運転手も2018年ごろからベネズエラ人が急増していた。

③2017.10.9 ゲバラ没後50周年(ボリビア)
チェ・ゲバラ没後50周年の記念集会を取材したが、失脚したモラレス前大統領がこの機会を利用して、自分の支持層である先住民たちを集めて気勢を上げていたのが目立った。

④2018.4.6 ルーラ逮捕
ルーラが逮捕拘束されることが決まった当日、サンベルナルド・ド・カンポ市の金属労組本部前を取材したが、ルーラ支持者が集結していて、彼のカリスマ力を改めて感じた。

⑤2018.5.29 ボルソナーロ候補(当時)を直接取材
まだ泡沫候補扱いされていた時点で、ボルソナーロを直接取材したが、欧米メディアが決めつけるような“極右”の人物というよりも、人のいい、地方のおじさん的な、好感のもてる人物であった。当時は、日本からの経済投資をもっとやってほしいというような現実的な話もあったが、取材のなかで軍政時代のことを聞いた時、「軍部独裁」という用語を使用したため、彼に付き添っていた息子(3人のうち次男のカルロス)から、「お前はブラジル政治の実態を全くわかっていない」と、ブラジル軍部礼賛、コミュニスト鬼畜論のような内容のレクチャーを30分以上うけるハメに陥ってしまった。
ボルソナーロに限らず、アルゼンチンでも、元大統領で現副大統領のクリスチーナの人気は、南米的ポピュリズムであり、ペルーのカスティージョ大統領は左派ポピュリズムとしてのカリスマ性あり。
ボルソナーロの固定的支持層は、圧倒的に白人層だが、実際会って話してみると、常識人が多く、「彼の主張をすべて肯定することはないが、でも、彼が好きなんだ」というような”ふわっとした民意”を感じた。
Globoのような既成メディアは、ボルソナーロを右翼と決めつけているが、バイアスがかかった見方と思う。
また、カリスマ性があるという点では、ルーラかボルソナーロか、となり、ドリア(サンパウロ州知事)にはそれがない。

⑥2018.10.28 ブラジル大統領選挙 決選投票の日
決選投票は、ボルソナーロ X アダッジ(PT候補)の間で行われ、ボルソナーロの圧勝。彼は選挙運動中に腹を刺され(重傷)入院したこともあって、公開討論会に一度も参加せず、おかげで、ディベートで失点することもなかった。TVの選挙広報枠では圧倒的に不利だったが、SNSのパワーを活用したことで勝利につながった。

⑦2019.1.28 ブルマジーニョ・ダム決壊
2019年1月25日、ミナスジェライス州ブルマジーニョのVALE社所有鉱山の鉱滓貯蔵ダムが決壊し、死者行方不明者300人以上という大惨事が発生した。その現場を取材したが、そのひどさに言葉を失った。被害者家族との和解が決まったが、その賠償金は日本円では数百万円とあまりにも少なかった。命の”値段”の格差だ。

⑧2019.2.19 ボリビア・サンタクルス市
ボリビアでは比較的豊かなサンタクルスの市民の多くは、白人富裕層でモラレス反対派だが、首都ラパスでは、政治集会に参加する多くは貧しい先住民で彼らはモラレル支持者たち。このコントラストがボリビア政治の一面。

⑨2019.8.23 アマゾン森林火災
この問題は欧米メディアが報じるような、違法伐採・違法開発が諸悪の原因で、それを取り締まらないボルソナーロが悪いのだ、というような一方的な説明では現実がみえない。実際の現場で取材すると、PTを支持する人たちでも「開発は必要だ」と主張する者も少なくない。

⑩2019.9.24 ベネズエラの高級寿司店
大都市の街中ではゴミを拾って食べている人も少なくないが、一方、ドルを入手できる富裕層には、ドル払いの高級寿司店なども少なくなく、いずれも繁盛している。ドル換算で30ドルも払えば、結構おいしい寿司を食べることもできるのがベネズエラだ。

⑪2019.12.17 チリ暴動
ラテンアメリカのなかでは、政治的にも経済的にも優等生と見なされていたチリも、反政府デモが激化して、同国で開催が決まっていたAPECとCOP25会議が開催を断念することに。
といっても、チリのデモ鎮圧は、発砲はなく放水主体の”ゆるいもの”だった。

⑫2020.5.9 コロナ禍悪化(墓地の写真)
コロナ感染が拡大し、外出制限などが決められると、直接外出して取材することができなくなった。オンライン取材で記事を書くようになったが、ハイクラスの大病院(シリア・レバノン病院やアインシュタイン病院)に聞くと、コロナに感染するのは、貧困層が多いため、彼らの仕事(富裕層向け医療サービス)は減ってしまった、と。コロナ禍は、ブラジル社会の格差問題を一層明らかにした。

⑬2020.5.9 ボルソナーロ支持者集会
ルーラがカリスマ性で人気(固定層は全体の30%くらい)を保っているように、人気下落気味のボルソナーロもカリスマ性で固定支持層(全体の20%くらい)はがっちり押さえている。
もう一つの問題は、学校(小中)閉鎖問題だ。ころな対応で1年半くらい公立学校は閉鎖され、オンライン授業など対応できなかったため、単純に、学業停止となり、生徒たちの学力低下、教育機会喪失は大問題だ。

講 師 外山 尚之 前日本経済新聞サンパウロ支局長
演 題 日本経済新聞サンパウロ支局長の4年半の経験
日 時 2021年12月8日(水)
11:30―13:30
会 場 シュラスカリア Que Bom 新橋新虎店
東京都港区新橋4-1-1 新虎通り CORE 2F
<アクセス> 地下鉄「内幸町」駅下車徒歩4分、JR「新橋」烏森口から徒歩6分
参加費 会員3000円
非会員3500円
(当日、会場にて領収書と引き換えに、参加費を申し受けます)
定 員 35名
※コロナワクチン二回接種済みの方のみに限定させて頂きます。
※会場は50名の座席がありますが、密を避けるため、定員数は少なめにしておりますので、早めのお申し込みをお願いします。